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演出ノート

普段は演出を文字に残すことはありません。

だけど今回は公演中止になってしまって考えていたことを何か残せないかと思い、物語が進む時間のあらましを書いてみることにしました。

『自由の国のイフィゲーニエ』はト書きや人物設定がなく、一般的な演劇ならば行う戯曲解釈が通用しませんでした。行間を読み、人物の言葉にしない感情を立ち上げる作業をやればやるほど、戯曲の熱い部分が消えてしまい、稽古場で非常に苦戦しました。

行間を切り離し、表面的に起こることを書き取るような感覚で、戯曲と歩むためのサブテキスト(物語)を起こす必要を思いたち、今回は若干お話めいたことを残してみます。

◆◆◆

舞台上に二本のマイクが立っている。

その10歩手前には透けた幕(子宮のような膜?)があり、映像で投影された美しい少女、ミューズの姿がある。彼女は20歳前後の若さを保ち、白くて、華奢な体つきをしている。

映像はゆらゆらと揺れていて、風が吹いているのか、彼女がくすくす笑って、脈うっているのか分からない。


ディナーショーが始まる。

1 第一夜

​​鏡のテント

マイクの前に二人の作業員が現れ、映像の美しいミューズの声そのものを担当する。
正義感にあふれ続けて、疲れ果てたエレクトラと、ちょっと愚鈍な弟オレストの声。
二つの対立は、彼女から欲望と快楽と、堕落の影を落とし、最後には愚鈍な弟の借りてきた正義感が、スペインの夜明けを眺望する。

2 第二夜

自由の国の

​イフィゲーニエ

映像のミューズの衣装が変わる。美しさは以前保ったままだが、年も取ったようだ。30代半ばの様子。
再びマイク前に二人の作業員が現れる。
一人はマイク前で喋るが、スピーカーからの出力が小さいのか声の通りが悪いのか、なんとも聞こえにくく、観客に伝わらないフラストレーションが身体に現れている。
もう一人は、呼吸の音と、老いた国王の声がたまに聞こえてくる。
スピーカーからは革命家の男たちの大きくて粗雑な声が流れ、通り過ぎていく。
作業員のフラストレーションと呼吸音は連動し、重なり合い、引きずられ、過剰な正しさと愛を伴った言動が繰り返される。

3 第三夜​

野外

​オリエンテーリング

ミューズの衣装は第二夜そのままである。

一夜、二夜が苦しかったからか、エラーを起こしてフリーズしているのかもしれない。

作業員たちの自由な時間。

エレベーターから死体の乗ったショッピングカートが登場し、作業員らはゴロゴロ押しながら、歌を歌う。

彼らは歌うなかで、下記の1~3の動きへと進む。


勝手にスピーカーも作業員に合わせてきて、粗野な男たちの声も吹き込まれる。

作業員は悲劇的なアンティゴネーを誇張しまくり日課の買い出しを行う。生活が命!

最後は電気が落ちて真っ暗になり、映像幕が落ちたかと思うと、何かが崩落するような音が大きく響き渡り、劇場が潰れたのかと思う!

ガレキの下から、まだ何か食い漁っているような声が聞こえる。

ugoki_edited_edited.jpg

4 第四夜

​古代の広間

薄い光が差し込み、劇場の大扉が大きく開き、外の風が入ってくる。全ての空気が入れ替わったような時間が過ぎる。
どこからか金槌でトントンと何かを作っているような音が聞こえるような気がするが、空耳かもしれない。
大扉を開いた者がマイクを一台立て直し、客席に背を向け、潰れた映像幕に話しかけるようだ。
その者は上着(作業着)を脱ぐと、華奢な体と着古したタンクトップ一枚を着ているのが見える。マイクに声をかけるが、年老いた爺のようでもあり、妖精のような声でもある、変な声だ。
昔話をする。話にともなって、その場には風が吹いたり、飛行機が飛んだりするが、それも空耳かもしれない。
そののち、下手からグループ・野原の串尾一輝のような女が出てくる。串尾のようで、串尾ではない。彼女は空耳と幻影と昔話を挑発し、小馬鹿にしている。
としていると、全身影でできたような真っ黒な者が彼女を乱暴し、彼女は着ていたワンピースだけを残して去る。
「コルドゥラ、愛してるわ!ナタリー」
マイク前の者は幻影と自身の話に疲れ切ってうなだれ、スピーカーからの声だけは物語を進めていく。
映像幕の残骸と、女のワンピースと、うなだれた者が、埃の舞う何もない空間を見つめている。

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