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​​フォルカー・ブラウンと『自由の国のイフィゲーニエ』について

​​蜂巣もも

■フォルカー・ブラウンについて

 フォルカー・ブラウンは1939年にドイツ東南部の古都ドレスデンで生まれています。第二次大戦が終戦を迎える1945年には6歳、東西ドイツが成立したときは10歳です。

1990年に東ドイツが西ドイツに併合されるまでの時代(社会主義の理想と現実が乖離して、なし崩し的に崩壊した)をともに歩み、今現在もドイツで作家活動を続けています。彼は東ドイツ時代、国お抱えの劇作家でもありました。

 彼の作品のいくつかは、過去の名作(チェーホフ『三人姉妹』など)を使いながら、その当時あった事件/新聞に出る煽り文句や、流行語を細やかに織り交ぜる手法ですが、説明的な部分が少なくて難解でもあります。

この手法は東ドイツの検閲を免れるために多用していたもの。また単なる批判的な態度ではなく、批判的にみている自分すらも強く疑問を呈しています。

■『自由の国のイフィゲーニエ』について

 わたしの読んだ感覚だと、書くテーマは違うけど、劇の進む感覚は革命アイドル暴走ちゃんみたいな感じかな

(一回しか見たことないから、間違っていたら申し訳ないですが…)。

印象的なモチーフがポンポン出てきて、古いお話が題材になってることもあれば、今でいう「不要不急!」とか「アベノマスク」みたいな、当時聞くとエモーショナルな言葉が散りばめられてます。

やや詩的でロマンティックなところもあるので、男性的な作家だなとも思います。

 さて、今回の『自由の国のイフィゲーニエ』は、民衆が心の底から欲望する「自由」が非常に刹那的で、快楽的で、暴力性を孕んでいることを4つの章を通じて何度も問い直していて、現代進みつつある全体主義をも示唆する戯曲です。

 翻訳者の中島裕昭さんに聞くと、壁崩壊/革命を進める若者たちにとってフォルカー・ブラウンの態度は、いささか説教臭く、閉鎖的な印象だったのではとのこと。

 冒頭を少し引用しておきます。

1 鏡のテント

止まりなさい。だれだ?いいえ、答えるのはあなたの方。

合言葉は?合言葉ってなんだ?

万歳とか、くたばれとかでしょ。

合言葉は忘れた。民衆(フォルク)/おれはフォルカーだ。

まじめに時間を守ってやって来たのね。

そうだ、監獄からまっすぐに来た……おれは国で

おれの務めを終えてきた。

……

※役名もト書きもない。

※太字は印刷にならいました。原文は全て大文字で記されています。

※合言葉は?の下りは、シェイクスピア『ハムレット』の引用か。

※万歳は、ジークハイル(Sieg Heil)か。ナチスドイツ時代に政治集会でこの言葉を繰り返し言う事が習慣だった。また、党員が誰かに会った時もナチス式敬礼をし「ジークハイル」と連呼して叫び、総統への忠誠を確認するというのが慣わしだった。

※われわれこそが民衆(人民)だ、は壁崩壊/デモを進める標語だった。

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